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東京地方裁判所 平成10年(ワ)29422号 判決

原告 株式会社東海銀行

右代表者代表取締役 西木由喜夫

右訴訟代理人弁護士 今井和男

同 山崎哲央

同 正田賢司

右訴訟復代理人弁護士 板垣幾久雄

被告 中山智夫

右訴訟代理人弁護士 小林公明

被告 星加憲章

被告 島村健雄

被告 青木昭男

被告 西村隆夫

右四名訴訟代理人弁護士 巻之内茂

同 森博樹

右訴訟復代理人弁護士 永田玲子

主文

一  被告らと株式会社アイ・ティー・シー・アエロスペースとの間で平成一〇年三月二〇日成立した別紙株式目録記載の株式の売買契約を取り消す。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、原告が訴外株式会社アイ・ティー・シー・アエロスペース(以下「訴外アエロスペース」という)に対して一億円の融資金債権を有していたところ、右訴外会社の代表者ないし役員であった被告中山智夫(以下「被告中山」という)、同星加憲章(以下「被告星加」という)、同島村健雄(以下「被告島村」という)及び同青木昭男(以下「被告青木」という)並びに右訴外会社の協力会社である訴外有限会社ティー・エム・シー・インターナショナル(以下「訴外有限会社」という)の代表者である被告西村隆夫(以下「被告西村」という)が訴外アエロスペースがその一〇〇パーセントの株式を有する子会社の訴外株式会社アイ・ティー・シー・リーシング(現商号株式会社ヘリコプターリーシング・インターナショナル、以下「訴外リーシング」という)の株式(別紙株式目録記載のもの-以下「本件株式」という)を額面金額で譲り受けたのに対し、原告は右売買が詐害行為にあたるとして当該法律行為の取消を被告らとの間で求めた事案である。

一  前提事実

1  被保全債権(当事者間に争いがない)

訴外アエロスペースは、原告に対し、平成八年一二月二六日、手形貸付・手形割引・証書貸付・当座貸越等一切の取引に関して生じた債務の履行につき、銀行取引約定書の約定に従う旨約した。

原告は、訴外アエロスペースに対し、平成九年一〇月三一日、手形貸付の方法により、弁済期を平成一〇年四月三〇日として、一億円(以下「本件貸金」という)を貸し付けた。

本件貸金の弁済期である平成一〇年四月三〇日が経過したものの、訴外アエロスペースからは、一切弁済がなされていない。

2  訴外リーシングとの関係及び事業の概要(当事者間に争いがない)

訴外リーシングは訴外アエロスペースの一〇〇パーセント出資にかかる子会社として設立された。訴外アエロスペースと同リーシングの事業の概要は次のとおりである。

(1)  訴外アエロスペースが、へリコプターの航空機を購入(購入代金は投資家より調達)

(2)  訴外アエロスペースは、右航空機を投資家に販売

(3)  投資家は右航空機を訴外リーシングにリース

(4)  訴外リーシングは右航空機をユーザーに転リース

(5)  訴外アエロスペースは、右リース期間満了時に右航空機を再購入し、再販売(但し、この点、中山を除く被告らは早期処分等の理由から訴外アエロスペースが一旦投資家から購入し、第三者へ転売することもあるという)

3  本件株式の譲渡(当事者間に争いがない)

訴外アエロスペースは、被告らに対し、平成一〇年三月二〇日、その所有にかかる訴外リーシングの本件株式一〇〇〇株を、その額面どおりの五万円でもって、左記のとおりの割合にて売買により譲渡した。

被告中山に対し、一〇〇株(譲渡金額五〇〇万円)

被告星加に対し、六〇〇株(譲渡金額三〇〇〇万円)

被告島村に対し、一〇〇株(譲渡金額五〇〇万円)

被告青木に対し、一〇〇株(譲渡金額五〇〇万円)

被告西村に対し、一〇〇株(譲渡金額五〇〇万円)

4  債務者である訴外アエロスペースの無資力(甲一、五、六、九、丙一五、一六及び弁論の全趣旨)

被告星加、同島村及び同青木はいずれも訴外アエロスペースの役員であったが、本件株式譲渡後、それぞれ役員を辞任するとともに、いずれも現在は訴外リーシングの役員として稼動している。

訴外アエロスペースは現在、営業停止状態で債務超過の状態にある。

二  争点(詐害行為の成否)

1  本件株式譲渡の詐害性の有無

(原告の主張)

本件株式の価額は一株あたり五万円とされていたが、これはあまりにも低い価額であり、訴外アエロスペースは不当に低い対価をもって最大の財産を逸失させた。

本件株式譲渡は、訴外アエロスペースが同リーシングの支配権喪失という経済的損失をも被るのであり、本件株式の譲渡価額の算出においては、右損失の填補をも当然反映させなければならない。すなわち、被告らは、訴外リーシングの支配権を取得することにより、オペレーティングリース事業を手に入れ、訴外アエロスペースをヘリコプターの売主の地位から排除したものである。

仮に、右譲渡が適正価額によるものであるとしても、訴外アエロスペースが、その事業及び収益において重要な地位を占める訴外リーシングの株式という重要な資産を極めて費消しやすい現金に変えたものに他ならないから、債権者を詐害する行為になる。

(中山を除く被告らの主張)

本件株式一株あたりの譲渡価額は、訴外リーシングの直前の決算期である平成九年六月三〇日時点での同社の純資産額六万九五七〇円と同年一二月の時点での類似業種比準価額五万四二〇〇円との折衷により算出された株価五万八〇四二円を基準とし、この金額から一部売掛金の回収不能の可能性やヘリコプター・オペレーティングリース業務(以下「オペリース」という)における与信リスク、為替リスク、税務リスク等を勘案して、額面金額相当額としたものであり、適正かつ相当な価額であった。

訴外アエロスペースは、オペリースの投資家向けのヘリコプターの販売以外にも、新品及び中古のヘリコプターの販売業務を行ってきており、訴外リーシングを利用しなければ利益が上げられないというものではない。

訴外リーシングは、平成一〇年四月以降もオペリース事業における投資家への売手として訴外アエロスペースを起用することにより同社の業務継続に全面協力することを平成一〇年三月末頃被告らの間で確認し、そのことを対外的にも訴外リーシングから挨拶状で表明した。

2  詐害意思の有無

(原告の主張)

被告中山、同星加、同島村及び同青木は、本件株式の譲渡がなされた当時、訴外アエロスペースの役員であった。

また、被告西村は、訴外アエロスペース又は同リーシングの業務顧問をしていた訴外有限会社の代表者としてアエロスペース及びリーシングの事務所に出社しており、本件株式の譲渡が決議された訴外アエロスペースの取締役会にも出席していた。訴外アエロスペースは、同リーシングを利用することで業務が成り立ち、利益を上げうること及び訴外リーシング自体がリース事業によって相当の利益を上げており、被告らはリーシングの株式の価値が額面以上のものであることは当然認識していた。

被告らは、本件株式の譲渡を受ければ、訴外アエロスペースの事業が立ち行かなくなること及び同社の財産が著しく減少し、債権者に対する弁済ができなくなるとの認識を有していた。本件株式譲渡により、被告らは、被告中山の経営による失敗ばかりの訴外アエロスペースに見切りをつけて収益部門であるオペリース事業のみを確保するため、訴外リーシングの支配権を手中に収めたものである。

(中山を除く被告らの主張)

被告らは、本件株式の譲渡によって、訴外アエロスペースの財産が著しく減少し、同社の原告に対する本件債務の弁済ができなくなるなどという認識は全くなかった。

本件株式譲渡に至った一つの理由は、訴外リーシングを同アエロスペースとは完全に分離独立させて別会社化することにより、オペリースにおける投資家の損金処理(ヘリコプターの減価償却)に対する税務否認の危険を回避することにあった。

(被告中山の主張)

被告中山としては、本件株式が少なくとも一株あたり五万円を超える価値を有している程度の漠たる認識はあった。

第三争点に対する判断

一  争点1(詐害性)について

1  訴外リーシングの非公開株式が一株あたりいくらの財産的価値を有するかについては、原告は甲第一一号証の朝日監査法人の評価書で、主として訴外リーシングの営業権を六〇八百万円として一株六七万六〇〇〇円に、甲第八号証の小塚公認会計士の意見書でも営業権相当額を五八四三二千円として一株一〇万〇〇一六円といった証拠を提出して被告らの本件株式譲渡が一株あたり額面金額五万円で取引されたのは、不当に安いものであると主張するのに対し、中山を除く被告らは当時会社の顧問税理士をしていた鈴木税理士に相談して、前記主張のように純資産額と類似業種比準価額との折衷により一株五万八〇四二円と算出して、会社の損金リスク等を勘案して額面金額の五万円としたという。すなわち、原告及び被告中山は甲第一一号証や甲第八号証さらには乙第一三号証で訴外リーシングの営業権を一定程度に評価しているのに対し、中山を除く被告らはその評価をすべきではないという点で大きな対立を示している。

この点については、詐害性の有無という訴訟上の法的争いの中でのこととはいえ、そもそも資産としての流動性の高い価値を有する本件株式について一義的な価格を導こうとすることに無理があるものと考えられるものであり、朝日監査法人の営業権の評価が過大なものと考える余地があると同時に鈴木税理士による営業権を全く評価しないことも税務的観点からはともかく、詐害性という法的観点からの本件株式の評価判断を要する本件においては、これまた一面的に過ぎるものというべきである。そして、営業権を評価すべきか否か、それによって本件株式が一株あたり額面五万円より高額になるかどうかということだけで本件株式譲渡が詐害性を有するかどうかを決するのは妥当とは思われないものの、証拠(甲八、乙一三、丙五四-枝番号を含む)を総合勘案すると、中山以外の被告ら提出の丙第五四号証による公認会計士の評価書によっても平成一一年六月三〇日現在ではあるが本件株式譲渡後の訴外アエロスペースへの貸倒を差し引かなければ一株六万七六〇〇円で額面の五万円を上まわることになり、被告の主張あるいは鈴木税理士の供述に則って税務上の観点のみから営業権を全く評価しないことは相当ではなく、幾分でもその点を評価すれば本件株式の一株あたりの価額が五万円を超えることは明らかである。

一般に、債務者の財産処分行為が債権者を「害する」とは、その行為によって債権の最後の守りとなる債務者の一般財産が減少して、債権者が満足を得られなくなることであるところ、債務者の一般財産の減少、債権者が弁済を受けうる額が少なくなるといっても、単に金額的な計数によって形式的に決定すべきではない。むしろ、重要な動産を相当な代価で売却したときにも場合によっては消費し易い金銭に変えることが債権者の共同担保としての効力を減ずることがある。

2  これを本件についてみると、証拠(丙七の1、被告中山、同星加)及び弁論の全趣旨によれば、オペリースは投資家とエンドユーザー、航空機販売会社との間に訴外リーシングと同アエロスペースを介在させ、航空機会社とエンドユーザー間で決定されたヘリコプターを訴外アエロスペースが当該航空機会社から即金で仕入れ、これを投資家に即金で販売して所有権を投資家に移転し、投資家はリーシングにリースし、リーシングは更にエンドユーザーに転リースするものであること、訴外アエロスペースの事業売上高は本件株式譲渡当時全体の約八割をオペリース部門の売上高が占めており、営業利益も九割近くを占めていることが認められ、しかるに中山を除く被告らは、税務対策上のアエロスペースとリーシングの分離を進めることを名目としつつも、証拠(乙三、四、六、二三、丙八の1、一五、一六)によれば実際にアエロスペースの役員であった被告島村、同青木が本件株式譲渡後間もなく同社の役員を辞任しており、会社のリース部門の有力な従業員もリーシングに移籍させたり、リース事業の顧客リストなどの重要な企業情報も持ち出すなどしていることが認められ、これら事実関係からすると、実質的には被告中山の経営能力に見切りをつけて、星加をはじめとする被告らで既存立ち上げ会社のリーシングを中心にオペリースによる事業を中山を排除してやって行こうとしたものと推認するのが相当である。

3  このような中山を除く被告らの意図とそれに基づく本件株式譲渡により、訴外アエロスペースはその経営基盤が弱体化し、同社の収益力を低下させ、資金調達力もなくなるものであることは、前記認定した事実関係に照らし明らかである。すなわち、訴外アエロスペースが収益部門の中心である子会社リーシングの株式を保有しているからこそ会社としての対外的信用性を維持し、資産として含み益も評価できていたものを、本件株式譲渡によりアエロスペースの会社としての資金力、資産価値を実質的に減じさせているものとみることができる。

それゆえ、原告である債権者からすると、共同担保としての効力を削減することになるので、本件株式譲渡には詐害性があるというべきである。

4  これに対して、中山を除く被告らは、訴外リーシングの同アエロスペースからの分離後においてもリーシングがアエロスペースをオペリース事業におけるサプライヤーとして起用することになっており、アエロスペースが従来どおりヘリコプターの仕入れ販売業務を行うことに変更はないのであるから詐害性はないという。

しかしながら、前記認定のような中山を除く被告らの訴外リーシングを別会社化する意図からすると、そのような起用には現実の保障がないものということができるし、実際に訴外アエロスペースと被告星加ないし訴外リーシング間でも何ら実質的拘束力のある従来経営を存続させるための方策が法的に採られて運用されているわけでもない。

被告らにおいて、例えば債務者である訴外アエロスペースが経済的更生をするために本件株式譲渡が必要不可欠ないし有用であるとかの同社におけるメリットについての主張と立証がない限りは前記認定説示したところの本件株式譲渡の詐害性は覆すことができないものというべきであり、本件証拠上そのような反証を認めるに足りるものは見当たらない。

二  争点2(詐害の意思)について

争点1で認定説示したところから明らかなように、中山を除く被告らのうち星加、島村及び青木は、訴外アエロスペース代表取締役ないし取締役であったことから会社の財務状況については精通し、アエロスペースとリーシングの関係及び前記認定したところの本件株式譲渡によるアエロスペースの経営ないし資産運用力に及ぼす影響についても十分認識していたものと推認できるし、西村についても証拠(甲七、一〇、乙九、一〇、一二、被告中山)によれば、アエロスペースないしリーシングの経営に金銭の貸借ないし星加らの友人として深く関わり、本件株式譲渡の有する星加らの意図も理解した上で行動しているものと推測されるので、中山を除く被告らにはいずれも詐害の意思が認められる。

次に、被告中山についても、星加らに騙されたり強要されたりして本件株式譲渡に応じざるを得なかったというが、被告中山がアエロスペースの代表取締役であり、会社の資産及び売上・収益状況については十分認識していたはずであり、同被告の主張によっても本件株式が少なくとも一株あたり五万円を超える価格を有する漠たる認識があったというのであるから、本件株式譲渡についての詐害の意思に欠けるところはないものというべきである。

第四結論

以上によれば、原告の請求には理由があるのでこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 福島政幸)

株式目録

一 会社名 株式会社ヘリコプターリーシング・インターナショナル

種類 普通株

額面金額 五万円

株式数 一〇〇株

名義人 中山智夫

二 会社名 株式会社ヘリコプターリーシング・インターナショナル

種類 普通株

額面金額 五万円

株式数 六〇〇株

名義人 星加憲章

三 会社名 株式会社ヘリコプターリーシング・インターナョナル

種類 普通株

額面金額 五万円

株式数 一〇〇株

名義人 島村健雄

四 会社名 株式会社ヘリコプターリーシング・インターナショナル

種類 普通株

額面金額 五万円

株式数 一〇〇株

名義人 青木昭男

五 会社名 株式会社ヘリコプターリーシング・インターナショナル

種類 普通株

額面金額 五万円

株式数 一〇〇株

名義人 西村隆夫

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